泣いた。笑った。感動した。深田祐介著「炎熱商人」

炎熱商人(上)

2週間前にその本を手に取ったときは、「うげ、1ページに二段も行があるし、分厚いな」「紙が日焼けで黄ばんで、古くさいな」という印象をもち、古い本のページをめくると、木の幹を這いだ隙間からする、あの鼻の奥に残るような独特の匂いを放つそれを、あまり読む気にはなれませんでした。

少しばかり読んでみたものの、なんだか状況が掴みづらくてページがスムーズに進まない。

ところがどっこい、我慢して読んでいるうちにどんどん物語のスケールのでかさと深さにはまってしまい、本を読んで泣いたことのなかった僕が、気がつけば終盤で号泣していました。過去に読んだ本の中でも、間違いなく心に残る一冊となりました。

 

「炎熱商人」 深田祐介

 

もともとは、昨夏にフィリピンに留学するにあたって、フィリピンに関わる小説をと紹介してもらったのがこの本に出会ったきっかけ。出会ってから1年後にようやく読むことができました。

 

物語は、1971年のニクソンショックまでに飛躍的な成長を遂げた日本の、とある木材会社「荒川ベニヤ株式会社」と、材木取引(ラワン材)を仲介する「鴻田貿易」、肝心な材木の原産地であるフィリピンの現地会社と関係者達を中心に進められます。

同時に、日比混血である「フランク・ベンジャミン(佐藤浩)」の回想として、第二次世界大戦中の1940年前後を生きる日本軍の、日本の支配下となったフィリピンへの理不尽な殺戮、残虐な仕打ちを描く一方で、日本軍憲兵隊のフィリピン現地人を尊重し、共存しようとする姿勢をも描いており、いい意味でも悪い意味でも、泥臭い「人間らしさ」がいくつもの側面から見事に表現されています。

でもこれだけだと、「なんだかお堅いテーマで読む気にならないな」と思う人もいるでしょう。

そんな思いを打ち消すかのように、実際はユーモアたっぷり、笑いたっぷりの展開です!

 

語調を少し変えて、(えっへん)

 

主人公(主人公は複数いる気もするが)の「石山高広」は、「荒川ベニヤ」の若手社員で、なかなか肝の据わった大男であり、今回は取引木材の重要な検木担当としてマニラの「鴻田貿易」に派遣される。彼は東京の下町育ちで、フィリピンのことを「土人のいる南国」などと蔑む母(咲子)を持つが、この咲子がまた最高に面白い。石山と咲子の親子のやりとりには何度笑わされたことか。

先ほどもあげた「フランク・ベンジャミン(佐藤浩)」は、「鴻田貿易」で今回の木材取引のマネージャーに抜擢され、支店長の「小寺和男」とフィリピンでの商売に奔走する。その間フランクは、戦時中の幼少期の記憶を何度も蘇らせるのである。

大戦期に旧マニラ日本人小学校に通ったフランクこと「佐藤浩」は、日本憲兵隊の「馬場大尉」にひどく慕われて、また浩は大尉を生涯の師のようにして付き添った。

 

フランクの中では、戦後を生きる小寺と戦中の馬場大尉がどうしても重なってしまう。

2人には、「日比の協和」を理想とする、讃えるべき人間の「柱」のような何かが備わっていたのだ。

 

しかし当然理想ばかりでは陳腐な物語にしかならない。

 

フィリピンなど、貧しい労働者で溢れかえり、材木の原産国にしか過ぎないと考える鴻田貿易の日本本社は過酷な要求をマニラ支店に次から次へと要求し続ける。

 

幾度となく襲われる困難を、小寺、フランク、石山らは乗り越えていくのである。

 

石山は、白い肌を持つスペイン系フィリピン人の「レオノール・アランフェス」と恋に落ちる。レオノールはアメリカ西海岸で医者をする両親を持つ大豪家の娘で、江戸の下町を一歩も出たことが無く、フィリピンを「シリッピン」などと呼ぶ石山の母、咲子とはうまくことが進むはずも無いのだが…

 

幾多の「人間らしい」「リアルな」生き様がまざまざと演出されている。

衝撃的なクライマックスに、涙しない人はまずいないであろうと自信をもって言える。

 

語調を戻して、(ごほごほ)

 

不意に、去年フィリピンで撮ったこんな写真が頭に浮かびました。日本兵がフィリピン人を捕虜にしている場面を想起させるお祭りと、アジアを彷彿とさせるローカルマーケット。

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「国際ビジネス」「国際恋愛」「戦争」「貧困」「誠意」「情熱」「エスニシティ」「裏切り」「時代」「宗教」「無情の悲しみ」「思いやりの心」「他尊自信」「理不尽さ」。。。

これだけのテーマが詰まった壮大なスケールの物語は他にないのではないのでしょうか?

 

話は変わって、僕のゼミの夏の課題は、「わたしのアジア本」というテーマでアジアに関する本を一冊読み、プレゼンで実際に、「読みたい!」をどれだけ獲得できるか勝敗を決めるというもの。

もちろん、この本で臨みたいと思います(*^-^*)

 

実はNHKで1984年にドラマ放送されたこの「炎熱商人」。

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NHKアーカイブスというサービスがあって、近くのNHKで無料で見ることができるんです!(これは便利!)

本は絶版、DVDは出ていないというなんとも悲しい状況なのですが、どうしてもこのドラマが見たい!ということで、さっそく自転車こいで渋谷のNHKまで行こうかと思っています。

 

なにかとフィリピンと関わりのある僕ですが、僕以上にフィリピンと関わりのある方、住んでいる方、留学している方、実際にビジネスをやっている方など、関係ある方はたくさんいるはずです。もしまだこの本を読んでいないのであれば、ぜひ読んでみて下さい。今後のフィリピンへの態度、ビジネスへの姿勢、人間のあり方を深く考え直すきっかけになること間違いなしの一冊です。

 

さて、今年もフィリピンに行きます。なんだか去年とは違う目線でこの国を見ることができそうですね。

この夏イチオシの一冊、深田祐介さんで、「炎熱商人」でした。

 

炎熱商人(上)
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炎熱商人(下)
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