2週間の中国旅行を終え、山東省の済南空港でチェックインの列に並んでいるとき、僕はこの街ではじめての日本人を見た。
北京と比べれば、この街はローカル色に溢れ、見た目はしっかりと周りに馴染んでいる日本人の僕を、めずらしがって「外国人」として見なしてくれる感がなんとなく好きだった。
僕の後ろに並んでいた日本人4人組は、たぶんどこかの小さな会社のご一行で、2人は僕のおじいちゃんよりも少し若いくらい。
1人はスーツがだぼだぼで、革靴をこつこつ鳴らして歩く粋がったサラリーマン。そしてもう1人は、日本語を話せる中国人の女性。
僕の前にも後ろにも長蛇の列。
「ファーストクラスに知らない振りして並んで、しれっとカウンター行けば意外といけますよ。こないだも並ぶの嫌だったんでそれやったんすよ」
粋がったサラリーマンの声が後ろから聞こえてきた。
「お、いいね、やってみるか」
すると僕のおじいちゃんより少し若いくらいの男性が、列を外れてファーストクラスの誰もいないカウンターへ行った。残りの3人もおもしろがって後に続く。なんとなく、中国人の女性だけが後ろめたさを感じているように見えた。
カウンターでは1人の男性がチェックインをしていたが、粋がったサラリーマンが次の一般客が来る前に、と言わんばかりに横から強引にパスポートを係員に差し出す。
周りに日本人がいないとでも思っているのか、3人の男性は「おおー、これいけるね!俺らファーストクラス対応!」なんて大きな声で笑っている。いい大人のくせに、まるで中学2年生。
そして僕の少し後ろに並んでいた4人は、僕よりもはるかに早くチェックインを済ませ、セキュリティゲートに向かっていった。僕は激しい憤りを覚えた。
背中がゾクッとするくらい、嫌な気持ちになった。そして、同じ日本人としてとても恥ずかしかった。
その後も15分くらいもやもやしながら並んだ僕の気持ちなんて彼らにはわかるまい。
たしかに、列に並ぼうともせず、平気で横入りをする中国人はたくさんいるかもしれない。
もしかしたら、彼らは世界を舞台にグローバルな人材として活躍するビジネスマンかもしれない。
でも、あんなのに「グローバル人材とはなんぞや」なんて話をされる部下や新入社員たちのことを考えただけでぞっとする。
そういえば、北京のカフェでも強烈に嫌な2人の女の子を見た。僕と同じくらいの年齢で、たぶん留学生だろう。
それでも日本を背負って海外に出ている留学生か、と言ってやりたいくらい、ひどい有様だった。
でもこれ以上ここでそんな話をしたら、ただの愚痴みたいになってしまうのでやめる。
日本が好きだから
嫌な話を聞かされて、気持ちのいい人なんていないと思うし、僕だって書く必要は無いかもしれない。どこにだっていい人も嫌な人もいるのもわかっている。もしかしたら、自分だって同じように思われているかもしれないし。だけど、中国に滞在しているという、少しでも共通項を持った日本人たちだったからこそ、どうしても言いたかった。
海外に出れば出るほど、日本人であることに誇りを持てたり、日本が好きになる。日本って、あなたは何人ですか?と聞かれたときに、堂々と「日本人です」と言える国だと思うし、いろんな意味でもっと強い国になって欲しい。
僕は日本が好きなので、少なくとも海外で自分と同じ日本人を見たときに、日本人同士「あー、やっぱ日本人っていいですね!」と言い合えるだけの、見えない結束感みたいなものがそこにいつもあってほしいと願う。