シンガポールは不思議な国だった。
シンガーポリアンというのか、シンガポール人がどんな特徴を持った人間なのかまるでわからない。
国中に張り巡らされた電車に乗ってみれば、肌の黒いマレー系や中国系、フィリピン人もいれば日本人もいる。
標識には英語のほか、マレー語、中国語、そしてタミル語が必ず書いてある。
この国はどんな国なんだ?
かつてのジョホール王国の一画で、マラッカ海峡を渡る貿易船の中継地点として栄えたことはゼミでやった。あたりを見回せば、たくさんの銀行のオフィスや証券会社が目に付く。金融の中心でもあるようだ。
Wi-Fi環境が日本と似ている。日本国内は、Wi-Fi環境が非常に悪い。各携帯電話キャリアのWi-Fiスポットは張り巡らされているにしろ、誰もがフリーで使えるわけでは無い。カフェやレストランも、パスワードを入力したりログインすればすぐに使えるような代物ではない。ローカルなネットワークを持っていないと、海外旅行者にとってとても不便なのだ。
シンガポールも同じだった。
おかげで僕らは、ホストのAmirと連絡を取るのが大変だった。
家の住所とFacebookは分かっていたが、家にいるのかもわからなかったし、極力タクシーも使いたくなかった。
こんなとき、僕らはいつも誰かに携帯を借りる。
思い切って、知らない人に電話を貸して欲しいと頼むのだ。
もちろん、頼みごとをするのは女の子に限る。男だったら、女の子の頼み事は大抵断るまい。幸いにも、僕らには麗子がいた。
そんなこんなで、親切な方の助けもあり、なんとかAmirの家にたどり着いた。
今回も大当たりだった。
築1年の彼の部屋は、20階建てマンションの19階で4LDKのシェアハウス。中庭には巨大なプールとBBQコテージがあり、クラブハウスにはジムとカラオケルーム、屋上にはナイター設備付きのテニスコートが2面ある。
なんだこれ、本当にただのマンション?そこらのリゾートより優れた設備である。
おまけにAmirのおもてなしは、どこのリゾートのフロントスタッフをも凌ぐ、本当にあたたかいものだった。
シンガポールで訪れた地は、海辺のテーマパーク「セントサ」、マリーナベイ周辺と眠らない街クラーク・キー。
セントサは観光客向けのテーマパークで、綺麗なビーチや、ユニバーサルスタジオシンガポール、水族館やカジノが揃う。
シンガポールのシンボル、マーライオンも見た。
夜には憧れのマリーナベイで美しすぎる夜景を堪能し、9時過ぎから始まる水のショーを見たあと、かの有名なマリーナベイサンズホテルの屋上に忍び込んだ。あの、屋上にプールがあるホテルだ。
水のショーは、僕らの旅の終わりを暗に告げている気がして、感動と共に少し寂しい気持ちになった。見たことがある方はたくさんいると思われるが、誰かに紹介したくなる場所である。きっとこの思いを共感してくれる読者の方はいるはずだ。
マリーナベイサンズの館内は、それこそ多種多様な人種と言語で溢れている。雰囲気に溶け込んでしまいそうなバーや、ラグジュアリー感が溢れるフォントでCASINOと書かれた賭場があちこちにある。エレベーターで最上階に上がると、シンガポールの夜景のパノラマが僕を圧倒した。
そしてひとつの決意をした。
ここで「わ~きれい!」と言うことは誰にでもできる。
そうじゃなくて、様々な人種と言語に包まれる環境が当たり前で、ここで当たり前のようにお金を使える人物になりたい。バーではメニューや値段とにらめっこせずに、時間を忘れて好きなお酒を好きなだけ飲める人物になりたい。
そんな夢のような決意を、わりと本気でした。
たまたまF1予選の開催日が近かったため、コース周辺には超かっこいいフェラーリやポルシェ、アウディが並んでいた。僕はもう、シンガポールの街にメロメロだ。
夜はまだまだここからだ。
電車ですぐのところに、パブやクラブが並ぶクラーク・キーという街がある。
Amirとルームメイトのエビ-とケバブを食べたあと、シンガポール最大のクラブに入った。
ここは1階、中庭、2階があるクラブで、1階と2階で流すミュージックジャンルが少し違う。
中は人混みなんてものではなく、常に東京の満員電車だ。そんな中、アルコールに狂って踊りまくるのは最高にスカッとする。
僕はクラブで踊るのが本当に好きだ。言葉も、人種も、体格も、男女もなにもかも関係ない。流れ出す音楽と、目の前にいる誰かと一緒にハイタッチやハグをしながら踊り狂う。ただそれだけのことだ。人間の性なるものが夜の街に溢れ出し、僕らはみんな同じなんだという一体感がそこにはある。夜の街で感じる、We Are The Worldだ。
こうして、僕らの東南アジア旅行は幕を閉じた。
この間、僕はあらゆる面で成長した。でもこういうことを、言葉にするのはいつも難しい。
でも、言葉にすることで自分に言い聞かせることができることを知っているから、後日ゆっくり考えてみよう。
8月26日から25日間、ずっと一緒に回ってくれた麗子と下川に、ありがとうと言いたい。
おおげさでも、きれい事でもなく、本当に幸せな時間に満ちあふれた旅だった。